【1話だけ】皇子妃は空気が読めるはずなのに、なぜか夫の気持ちだけはわからない

「……それが、シンナから帝国に輿入れさせるのと、どう関係するのですか?」
「はっきりしたことは分からない。だが、ラナヴェル王国、今はラナヴェル領か。現在そこに、そなたの夫となる第三皇子がいるらしい」

 帝国の第三皇子が自分の夫になることを、あたかも決定事項のように話す。
 ナツメはまだ了承していないにも拘らず。
 そのことが許せなかった。

「それが何だと言うのですか! ラナヴェルの王族から娶ればいいではありませんか」
「適齢期の王女はいなかったはずだ」
「ぐっ!」

 その通りだ。
 ナツメも知っていた。

「なら直系でなくても傍系とかなら誰かしらいるでしょう!」
「いなかったから、うちに話が来たのだろうよ」
「だから、どうしてそこでシンナなのですか?」
「……あそこは昔から我らのことを妙に崇拝しているから」

 ああ、と絶望的な気分になる。

「帝国はそのことを知って……?」
「想像でしかないが、それを期待してのことだろうな」

 ナツメが半刻程度なら行儀よく座れるようになった十歳頃からだ。
 父は外交の席にナツメを呼ぶようになった。
 ラナヴェル王国の使節団とも、来訪が途絶えるまで数回面会したことがある。

 外交の場で大人たちの使う小難しい言葉や言い回しは、あの当時はまだよく理解できなかった。
 けれど、神の子孫だからと、やけに持ち上げてくるのは理解できた。
 神の子孫から認められたい、と願っていることは見えなくとも見えていた。
 表面上はラナヴェルの使節団からの賛辞を受け取る父の横で、ナツメは居心地の悪い思いをしたものだ。

 シンナ王国の王族自身は、スキルがあるとはいえ、自分たちが神の子孫だという伝承は信じていない。
 しかしその一方で、スキル自体は神からのギフトだと思っている。
 誇示するものでもなければ、戦争の道具にするものでもない。
 それを使って、民とともに島で身の丈に合った生活を営めればいい。
 そういう、野心とは無縁な一族なのだ。

 だからこそ、シンナの王族が自身のスキルについて語ることはない。
 それでも諸外国にもどこからか漏れるらしく、どうも神秘的な力を有していて、その力をもって国を治めているらしい、とだけ伝わっているようだ。
 どれだけの国がそれを本気にしているかは疑問だが、少なくともラナヴェルは信じているようだった。
< 8 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop