転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 彼の手首を掴んでいた私の指先に己の手を重ねたディルクさんは、左右に首を振った。
 その理由を探るべく、伏せていた視線を上げる。

「俺は、無理強いをするつもりはない」

 すると――目を合わせた彼は、はっきりと宣言してみせた。
 しかし、私の反応が芳しくなかったからだろう。
 それだけでは説明不足だと悟り、続けて言葉を重ねる。

「君がほかの男の元に嫁ぎ、つらい思いをするくらいなら。俺が守りたいと思った」
「具体的には? 私に、何をしてくれるのですか?」

 ディルクさんは息を呑むと、苦虫を噛み潰したような顔で言い淀む。
 その質問は想定していなかったと言う顔だった。

 口先だけなら、なんとでも言える。
 味方の振りをするのは簡単だ。
 そんな彼の姿を、見てしまったら――。
 私はこれ以上、前には進めない。

「ベサリオ公爵家に、話をつけた」

 ディルクさんから何を言われているのかすぐにはわからないほど、動揺している。

「今、なんて……?」

 それが自身の家名で、聖女として任命されてから顔を合わせたこともない両親と彼が話をつけたのだと知らされた私の脳裏には、警告音が鳴り響く。
< 125 / 249 >

この作品をシェア

pagetop