転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 私は彼がしっかりと頷く姿をじっと見上げ、案外悪い人ではないのかもしれないと思い直す。
 自分とそう代わりのない年齢の、画家。
 信頼できるかは、まだ未知数だけれど……。
 今すぐにここで命を断てと命じてくるような男性よりは、よほど頼りになるはずだ。

 ――身の危険を感じたら、すぐに一角獣と一緒に逃げればいいだけ。

 彼の思惑がどうであれ、手を差し伸べてくれる人がいることを素直に喜ぶべきだと考え直す。
 前世の私には誰1人、そうした存在は現れなかったのだから……。

「俺はディルク・モレラス。売れない画家をやっている。君の名を、聞いてもいいだろうか」

 男性から自己紹介を受けた私は、偽名を名乗るべきかかなり迷った。
 神殿がユニコーンを連れて逃げた私を探す際、フルネームを公表している可能性が高かったからだ。

 両親の顔なんてほとんど覚えていないけれど、ひとまず家名は告げないほうがいいだろう。

「私は、シエルと申します。これから、お世話になります……」

 私は小さく頭を下げてから、ディルクさんの大きくてゴツゴツとした手を両手で握りしめた。
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