転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 あの時私が恐怖に飲まれていれば、危機を悟ったユニコーンが聖職者の命を奪っていたかもしれない。
 最悪な事態は免れた。
 だから、これでよかったのだ。

 そう慰めてくれる彼の言葉を素直に受け入れ、安堵したいのに――モヤモヤとした心が晴れてくれない。

「君が生まれ持った聖なる力は、まだわからないことも多いが――。安心してほしい。シエルを傷つけるものが現れぬ限り、率先して使用することはない」
「で、も……。私が苦しみをいだいて描いた絵は、王城で……保管されていて……」
「安心してくれ。俺の許可なく、あれが持ち出されることはない。シエルの描いた絵画の危険性は、よく知っているからな」
「ディルク、さん……」

 そんなこちらの様子をじっと観察していた彼は、私が納得するまで何度も説得を試みてくれた。
 それが何よりもありがたくて、心の奥底に広がる靄が段々と晴れていくのを感じる。

「これからの生活を、不安に思う気持ちはわかる。苦しくて悲しくて、つらい気持ちを発散するために、絵を描くことだって、あるだろう」
「はい……」
「俺は君に、絵を描くなとは言わない。むしろ、率先して筆を取ってほしいと思っている」
「どう、して……」
「言葉にできない思いを溜め込めば――きっとシエルは、壊れてしまう。そんな予感がするからだ」
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