転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 ディルクさんが深海色の花瓶、私がそこに水差しされた大輪の花を咲かせる向日葵を書き終えたあと、婚約者は完成した絵画を満足そうに見つめて告げた。

「この様子なら、次の段階に進んでもよさそうだ」
「ディルクさん……?」

 一体なんの話だと彼の顔色を窺っていると、ディルクさんはそう不安がる必要はないのだと言わんばかりに淡々と語る。

「シエルはここで暮らすようになってから、たくさんの絵を描いてきた」
「は、い……。絵を描くの、凄く、楽しくて……」
「いい傾向だ」
「ありがとう、ございます」

 愛を囁いてくれる人に褒められたら、悪い気はしない。
 私がお礼を伝えれば、彼は何処か遠くを見つめながら言う。

「ずっと、考えていた。君の描いた絵を人目に触れさせぬまま保管するのは、宝の持ち腐れではないかと」
「でも……」
「個展を開いて、たくさんの人に見てもらおう」

 ディルクさんの提案に驚いて、私は二の句を紡げなくなってしまった。

 だって、個展だよ?
 部屋の中いっぱいに私の描いた絵が飾られるのだ。
 知らない人に見てもらう、なんて……。
 そんな経験、前世ではできなかった。
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