転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 婚約者に心を開くまで、長い時間がかかると思っていたのに……。
 いつの間にか、かけがえのない人になっていると気づいてしまった。

 ──本来であれば、喜ぶべきことだ。
 しかし、それを否定する悪魔の囁きがどこからともなく聞こえてくる。

『あなたはただ自分に好意を向けてくれる存在を、都合のいい道具として利用しているだけでしょう?』

 幻想は幸せな時間は瞬く間に過ぎていき、心を開いた瞬間に捨てられてしまうのだと語る。

『きっといつものように、裏切られてしまうでしょうね』

 その声には、聞き覚えがある。

『可哀想なシエル。あなたの味方なんて、どこにもいないのに……』

 何度も何度も、繰り返し再生されてきた。
 それは、前世の私。
 佐部志江留のもので……。

 ――私はあの子のように悲しみに包まれながら命を落とすことはないと、聞こえてきた声を心の中で否定する。

 ディルクさんが私を求め、愛を囁いてくれる限り──シエル・べサリオの進むべき道は、キラキラと光り輝いている。
 そう、思うから……。

 ――佐部志江留の記憶を引き摺ってあの子に怯える生活は、もう止める。
 これからはシエル・べサリオの人生を、歩んでいくんだ。
 大切な人と、一緒に。
 幸福に満ち足りた平穏な日々を、穏やかに営むために――。
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