転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 司祭に結婚を命じられた時は、なんで私が顔や名前を知らない相手と夫婦にならなきゃいけないんだろうと、不思議で堪らなかったけど――。

 今は結婚を命じられた相手がディルクさんでよかったと、心の底からそう思えるようになった。
 それは彼のお陰で何不自由なく暮らせるようになり、こうして個展まで開いてもらえたお陰だ。

 ――もう誰にも必要とされないと、泣き叫ぶ必要なんてないんだ。

 そう思ったら、なんだかもっと前向きになれたような気がする。
 私を見て、知って、名前を呼んでくれる。
 大好きな人たちを拒んでなんか、いられない。

 ――今日が終わったら。
 婚約者はやめて、あなたの妻になりたいと言おう。

 白い結婚を取り止めることはできないけれど。
 彼の妻として生きたいと願えるほどにあなたを信じられるようになったと、自分の口から伝えたい。

「ディルクさん。あのね……」

 そう、思うから。
 はやる気持ちを抑え、覚悟を決めて彼と約束を取りつけようとした時のことだった。

「シエルったら、酷い! 私が一生懸命描いた絵を、自分が描いたって言うなんて!」

 2度と聞きたくない忌々しい金切り声が、どこからともなく聞こえて来たのは。
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