転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 ディルクさんの声を耳にした瞬間、喚き散らしていた妹の声が止まる。
 あの子を視界に入れたら、私はきっと駄目になってしまう。
 そう思って、顔を見ずにいたけれど――。
 さすがに婚約者から促されてしまえば、背を向けたままはまずいだろう。
 薄目であの子の姿を確認すると――まるで鏡写しのように、真っ青な顔をした妹と目が合った。

「そ、そんなの……無理……」
「こんなところで、できるわけが……」

 私たちはほぼ同時に、似たような言葉を口にした。
 あの子は聖なる力を宿した絵を描けないから。
 私は、誰かに絵を描く姿を見られるのが苦手だったから。

 ――こんなにたくさんの人がいる前で筆を取るなんて、私には無理だ。
 そう、思うのに――。

「シエルが動揺したのは、嘘をついている証拠だよね!?」

 私の泣き言を耳にしたあの子が、鬼の首を取ったかのように金切り声を上げた。
 その直後、ここで負けを認めたらまた奪われてしまうと緊張感でいっぱいに満たされる。

 ――もう嫌だ。
 佐部志江留のように、非業の死を遂げるのだけは。
 せっかく、幸せになれたのに。
 あの子に土足で踏み込まれて踏み躙られる理由など、あってはならない――。
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