転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 妹は、左側の席に腰を下ろす。
 しかし──俯いてドレスの裾を握りしめたまま、いつまで経っても指を動かす様子がなかった。
 あの子には、絵の才能なんてないのだから無理ない。
 私と同じように聖なる力を宿した絵を画布に動き出すなど、できるはずがなかった。

 ――平常心を心がければ、きっと大丈夫……。

 私は迷いのない動作で、筆を滑らせる。
 こんなことに、長々と時間なんて使いたくなうからだ。

 ――さっさと、終わらせなくちゃ。

 私がこれから画布に描くのは、空に輝く七色の虹と色とりどりの光が水面に反射する光景だ。
 この個展で飾られている絵にはすべて、水や海を下部に描画していた。
 まったく異なるモチーフの絵よりも、こちらの方が見ている人たちにわかりやすい証明になると考えたのだ。

「ほら、やっぱり! 殿下と一緒にいらっしゃったのが大聖女様なんだわ!」
「なんて素晴らしい絵を、即興でお描きになるの……?」
「なんだか胃が、ムカムカしてきた……」

 個展に訪れたお客様たちは、私の思惑通りまったく絵を描けていないあの子ではなく、こちらが正しい作者だと信じてくれたらしい。
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