転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 彼女は誰かに愛された経験がなかった。
 そのため、最初から自分が誰かに好かれるわけがないと諦めている。

 シエルとの結婚を心の底から望むのなら――まずは友人として、彼女を遠くから見守るべきだったのだろう。
 それから徐々に男として意識してもらえるように会話を重ねていけば、俺達は思いを通じ合わせた正真正銘の夫婦になれる。
 彼女が負の感情に支配された絵を描くことや、すべてを諦める必要などなくなるはずだ。

 しかしーー俺に助けを求めているようにしか聞こえない言葉を耳にしたら、駄目だった。

 差し伸べられた手に背を向け、見て見ぬ振りをするほど冷徹ではない。
 彼女が妻になるのであれば、少しでも早く、憂いを晴らしてやりたい。
 そう思ったから、伝えた。

「俺は、君の描く海が好きだ」

 たとえ彼女の描く絵に、恐ろしい力が秘められているとしても。
 俺は生涯、彼女を愛し続ける。
 そんな決意が伝わったかどうかは、定かではない。
 今はまだ、その答えを聞くのは早いと判断したからだ。

 こちらの気持ちは伝えた。
 あとは、彼女次第だ。

 ――シエルはこれから、飲まず食わずで絵を書き続けるらしい。

 ここにいては邪魔になるだけだと考え、俺は居間へ移動した。
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