転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
「配慮のつもりだった」
「……なんの?」
「怯えさせるくらいなら、敵意がないことを知ってほしかった」
「それと床へ座ることに、一体どんな関係が――」
「どうしても嫌なら、命じてくれ」

 低い声で紡がれる声を聞き、できるわけがないと首を左右に振る。
 聖なる力をいつまで経っても発現できず、偽聖女と心ない言葉を投げかけられてきたのだ。
 威張れるはずがなかった。

「私は、そばにいて欲しいと言っただけ……」
「そばにいる」
「そうじゃないの」
「部屋からは出ない」
「私がしてほしかったのは……!」

 売り言葉に買い言葉とばかりに話の通じない彼と会話を続けていた私は、声を荒らげかけてぴたりと止めた。

 ――触れ合える場所にいてほしかった、なんて。

 烏滸がましい願いを口に出してはいけないと、思い直したからだ。
 同性ならともかく、相手は対して仲良くもない異性の男性だ。
 いくら人肌恋しくたって、年頃の男女が一つのベッドで身を寄せ合うと言うのは、問題がある。
 いくらユニコーンが私たちの間に挟まっているとしても――自分らには手を伸ばせば互いに触れ合えるくらいのこの距離が、ちょうどいいのかもしれない。
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