転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
「神殿暮らしが長いので……。こうした日常の風景を見るのは、初めてで……」

 ディルクさんは私の言葉を耳にした瞬間、何か言いたげに唇を噛み締めた。
 しばらく待ってみたけれど、彼の口から言葉が紡がれることはない。

「あら。あれって……?」
「今日も素敵ね」
「隣にいるのは、付き人かしら……?」
「それにしては、様子がおかしいわ……」

 ――私には、面と向かって聞きづらいことなのかも……。

 アトリエにいる時は、彼の口から言葉が紡がれるまで黙ってじっと、待っていればよかった。
 でも、ここは城下町のど真ん中だ。
 人目がある。
 先程目にした貴婦人たちは口元を扇で隠しながら、こちらに訝しげな視線を向けている。

「行こう」

 それに気づいた彼は私の了承を得ることなく、繋いだ手を引っ張る。
 その後、近くの画材屋へ案内してくれた。

「おやまぁ。珍しい客が来たもんだねぇ」

 入店すると、エプロンを身に着けた年配の女性が私たちを出迎える。
 彼女は物珍しそうな声を発したが、油絵の具が醸し出す独特の香りにうっとりと瞳を潤ませている私にとっては些細なことだ。
 私は店主の反応を気にする様子もなく、壁一面に並べられた画材を見渡した。
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