転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 得体のしれない無気力感に抗いきれずに支配される。

「俺は、嘘つきだ……」
『そうだよ。あなたは、許嫁を名乗る資格なんてない』

 己の呟きへ同意するかのように、俺が大切にしたいと思い、守りたいと願ったシエルの声がどこからともなく聞こえてきた。

「あ、ぁ……」
『私の前から、早く消えて。もう2度と、姿を見せないでよ。あなたは私を救ってくれなかった。傷つけた。絶対に、許さない』

 わかっている。
 これはただの、幻聴だと。
 彼女は声など口にできる状態ではなく、意識を失った状態で床に倒れ伏していたのだから。

 ――だが、これが幻影ではないとすれば? シエルと目を合わせた時、そうはっきりと、心ない言葉が宣言された場合――。
 その時俺は、今まで通り彼女の許嫁として、そばにいられるのだろうか。
 俺を嫌う彼女に愛を囁き、伴侶になってほしいと今まで通り口にできるのか?

「く、そ……っ」

 たとえ、嫌われてもいい。
 好かれていなかったとしても、苦しむ最愛の聖女をこのまま見て見ぬ振りをして見捨てるなど、冗談ではなかった。
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