「好き」があふれて止まらない!
響いた歌声


五限目の授業を終えてわたしと我妻くんはそれぞれ教室掃除、廊下掃除を済ませたあと旧校舎で落ち合った。

「⋯⋯な、なんだか緊張してきた」

音楽室の前で大きく深呼吸をするわたしを見て我妻くんは「歌うのは俺らだぞ?」と不思議そうな顔をする。

「それはそうなんだけど」

MEBIUSのうちひとりは先輩だから緊張しちゃうよ。

顔はぼやっとしか思い出せないけど、優しそうな人。⋯⋯だったはず。

もう一度、深く息を吸ったタイミングでガラガラとドアの開く音がした。

「客、連れてきた」

我妻くんは息を吐いたばかりのわたしの背中を後ろからぽんっと優しく押す。

わたしはその勢いのまま音楽室へと足を踏み入れた。

音楽室の中には杉浦くんともうひとりの男の子がいて、わたしを見た瞬間に目を丸くする。

「……え、奏人が女の子を連れてくるなんてどういう風の吹き回し?」

「一番初めに言うことがそれかよ、千里」

我妻くんが千里と呼んだ男の先輩は襟足が長めの黒髪を後ろでひとつに束ねていて、黒縁のメガネをかけていた。


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