温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 これで話しは終わりだろう。
 仕事に戻ろうと事務室を出ようとしたときだった。一鷹さんが私を呼んだ。

「すず、悪いんだけど。ちょっと付き合ってもらえるかな?」
「もうすぐお客様が到着する時間になりますけど」
「ああ、そんなに時間はかからないよ」

 羽織に袖を通した一鷹さんにいわれ、それならばと、私はコートと大判のストールに手を伸ばした。

 草履からブーツに履き替え、外に出ると雪がはらはらと降ってきた。

「傘、持ってきましょうか?」
「すぐそこだから大丈夫だろう」

 そういった一鷹さんの手が、私の指を掴んだ。

「寒いところ連れ出してすまないな」
「それは大丈夫ですけど、どこに……」
「実は、明日、母さんの誕生日でな」
「女将の?」

 驚いて一鷹さんを見上げると、少し照れたようにはにかむ顔があった。

「毎年花を贈っているんだが、代わり映えがしないっていわれてな」
「代わり映え、ですか?」
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