温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
「そうなのか? 俺はそういうの疎いんだが……そういや、母さんの帯留めにあるな」
「ターコイズブルーの似合う花束って、作れないでしょうか?」
 
 私の提案を聞き、一鷹さんは「それ面白いな」というと店員を呼んだ。
 青一色だと面白味に欠けるからと、白も入れつつブーケを作ってもらうことになった。

「それじゃ、明日、受け取りに来るから。それと」

 いいかけた一鷹さんが、ふと顔をあげた。視線の先へとつられて目を向けたら時計があった。

「もうこんな時間か」
「若旦那、私先に戻りますね!」
「ああ、すまない。なにか文句をいわれたら、俺が離してくれなかったとでもいっておけばいい」
「そんなこといいませんよ」

 急いで軒先へ出ようとする私に「転ぶなよ」といった若旦那は、大きな手をひらひらと振った。それに笑顔で頷きながら引戸を開けて外に出た時だった。

「すず?」と横から声がかかった。

 ぞわりと背筋が震えた。

 低い声が私の頬を叩いたようだった。反射的に振り返ると、そこに隼人がいた。
 どうしてこんなところにいるの。
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