温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 どうして謝られたのかわからず、きょとんとする。すると、さっきはあんなに鋭かった目が、寂しそうに細められた。

「俺が外に連れ出さなければ、あの男に会うこともなかっただろう」

 私の手首に包帯を巻きながら、一鷹さんは静かに語り始めた。

「それに、すずを一人で帰らせなければ……」
「で、でも、まさか彼がここに来てるなんて思わなかったし、それに急いで飛び出したのは私で」

 包帯が巻かれた手首を、一鷹さんがそっと撫でた。

「だとしてもだ……危うく俺は、また大切な子を失うところだった」
「……大切な子?」

 またって、どういう意味だろう。
 一鷹さんの言葉に、一抹の不安がよぎった。
 もしかして、私に誰かを重ねているんじゃないかなって。そう考えた瞬間、彼のいった婚約者という言葉が、脳裏に重くよみがえった。

 鼓動が早まる。
 息をのみ、一鷹さんの言葉を待ちながら、お願いだから話さないでと願った。
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