温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
「俺には妹がいたんだ」
「……妹さん?」
「東京の大学で経営学を学んでいた。ヴェリテで働くのが夢だっていっててな」

 想像と違った話しに少しだけほっとしたのも束の間。続けられる告白に、私は頭を殴られたような衝撃を受けることになった。

「……だけど、男に辱しめを受け、自ら命を絶ったんだ」

 淡々と告げられた過去。
 脳裏で「また大切な子を失うところだった」という一鷹さんの声が繰り返される。

 結び橋の上で私を引き留めたときの焦った顔や、泣いていいんだと私にいってくれたあの日のことが、走馬灯のようによみがえった。

「……だから、私を助けたんですね」

 胸が締め付けられる。

「妹さんみたいに、過ちを冒さないように……」

 つまりそれは、恋とか一目惚れなんかじゃないってことよね。
 頬を熱い雫が伝い落ちる。

「そうだが、すず──」
「あそこにいたのが私じゃなくても、一鷹さんは声をかけた。そういうこと、ですよね?」

 一鷹さんの手を払い、立ち上がっていた。
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