温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 広いロビーも年代を感じさせる作りだったけど、そこからさらに奥へ通じる廊下は、なおさら情緒を感じた。

 ガラス張りの向こうには、作り込まれた美しい庭園がある。

「この庭は、特別室から出ることもできるんだ」
「素敵な庭ですね」
「見てごらん、あの桜」

 立ち止まった廊下で一鷹さんが指差したのは、立派な桜の古木だだった。時おり揺れているのは、枝にとまった小鳥が飛び立ったからだろうか。

「春先も当然美しいが、秋の色づく姿も風情があるだろう?」
「ええ、とっても……」
「露天風呂からは満点の星空が眺められる。都会から来たのなら、きっと驚くぞ」

 それから教えられた大浴場は男風呂と女風呂に二つ。それぞれ露天風呂や檜風呂もあるらしい。朝になると暖簾を入れ換えるから、両方楽しめると教わった。

「食事は併設の食事処、花明りで夕食が頼める。部屋にも運べるが、とうする?」
「レストランでいただぎす」
「では、そのように手配しよう」

 立派な階段の前に行き、ここを上がれば食事処だからと教わり、そのまま階段の前を横切った。
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