白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「俺にも、ピアノ弾ける?」

そう言うと美玖の指が止まった。

「悠真先生がショパンを弾くのは、難しいわよ。」

「そうだよね。」

俺は足を組んで、美玖を見つめた。

こうして話をしているだけでも、俺は楽しい。

「そうだ。猫ふんじゃったなら、初心者でも弾けるわよ。」

美玖は俺の腕を引き寄せると、右手を鍵盤に置いた。

「一番最初、これ。ねこ、ふんじゃった、ねこ、ふんじゃったって、この音階ね。」

美玖が弾くと、どんな簡単な曲でも、優しい音楽に聞こえるから不思議だ。

「こう?」

見様見真似で弾いてみると、美玖は拍手した。

「すごいじゃない。悠真先生、弾けてる。」

美玖が喜んでいる。それが何よりも嬉しかった。

「もう一回ね。」

すると俺の右手に合わせて、美玖が左手の伴奏を弾く。

まるでかけ合わさったハーモニーのよう。

二人の指が、一つの曲を奏でる。
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