白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
ただお互いが会いたがっている。

それだけのこと。

俺は何も言わずに、下を向いた。

「キスしてるの、見ちゃった。」

俺は里奈さんの腕を掴んだ。

「誰にも言わないでくれ。」

「言えないわよ、こんなこと。」

そっと里奈さんの腕を下ろすと、背中を向けて歩き出した。

「ねえ、大丈夫なの?」

里奈さんが後ろから、追いかけて来る。

「何が?」

「彼女の執刀、私がするわ。」

俺は立ち止まって、少しだけ振り返った。

「情が入ると手元が狂う。何かあった時に、彼女に責められるのはあなたよ。」

「それでも、情がなければこのオペ、乗り越えられない。」

俺は言い切った。

「1mmの妥協も許されないんだ。俺以外に、美玖を救うことはできない。」

そう言うと、里奈さんは目を伏せ、唇を噛んだ。

その表情に――もう、言葉は要らなかった。
< 115 / 298 >

この作品をシェア

pagetop