白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―

第5章 Adagio amoroso ― 永遠よりも長い夜

本当は手術を受けなければならない。

それは分かっている。

私は、自分の指先を見つめた。

私が私である為に、必要な指先。

その動きが失われるなど、どうやって覚悟をすればいいのだろうか。

人は言う。若いのだから、人生やり直せると。

でも私は、ピアニストの人生以外知らない。

「天音さん、今日は体調安定してますね。」

看護師さんが、バイタルを測りにきて私に告げた。

最近は、発作が起こる事も少なくなった。

そんな時にふと思う。

このまま退院しても、上手く生活しているんじゃないかって。

「今日、渡部先生は?」

看護師さんが、黙っている。

何よ、いつもは教えてくれるのに。

「天音さん、渡部先生はただの担当医です。」

呆れたように告げる。

「先生もはっきり、気持ちには応えられないと言えばいいのに。」
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