白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
きっと朝倉君も、ドビュッシーを弾いているだろう。

しかも私が今弾いている、《月の光》

悠真先生もコンサート会場で、この曲を聴いている。

ああ、本当だったら私が悠真先生に、この曲を届けたかった。

コンサート会場にいる朝倉君が、月の光を弾いている。

それを聴いている悠真先生。

そしてこの病院のコミュニティスペースの電子ピアノで、同じ月の光を弾いている私。

まるで、私が悠真先生に弾いているみたい。

ねえ、悠真先生。

私の弾く月の光も、先生に届いている?

そして最後の一音を、指で弾いた時。

コンサート会場では、大きな拍手が、朝倉君のデビューを飾るだろう。

「はぁはぁ……」

でも、私はそれができなかった。

なぜあの時、神様は残酷にも私を、死の縁においやったのだろう。
< 129 / 298 >

この作品をシェア

pagetop