白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「美玖、冗談で言ってるんじゃないんだ。」

「私も、冗談でキスしてなんて、言わない。」

私達はお互いを見つめ合った。

「暗闇の中で、もう一度だけ先生に会いたいと思った。」

「うん。」

そう返事をすると、先生は私の唇にそっと口づけをしてくれた。

「何度でも、会いにくる。君の為に。」

「私の為に?」

「……俺の為にも。」

その夜は先生の腕の中で、静かに過ぎて行った。

翌日。悠真先生が持って来た手術同意書。

その白い紙の上に、黒いペン先が触れる音がした。

「……天音、美玖。」

自分の名前を最後まで書き切った瞬間、

まるで音符が途切れたように、世界が静かになった。

悠真先生は何も言わなかった。

ただ、私の指先を見つめていた。

震えるその指が、これから失うかもしれないもの——
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