白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
そして先生は、ちらっと時計を見ると、私から手を離した。

「そろそろ帰るね。」

急に寂しくなった。これが最後の夜でもないはずなのに。

「明日の朝は、オペ室で会うことになるね。」

いつもはうんと頷けるのに、今は頷けなかった。

「ねえ、先生。」

「ん?」

「手術して、そのまま目が覚めないなんてことはある?」

先生の息がゴクンと飲み込まれる。

「可笑しいよね。そんな事思うなんて。」

「美玖……」

「でもね。やっぱり思うの。今夜が生きていられる、最後なんじゃないかって。」

先生は私を抱きしめてくれた。

「そんな事思わなくていい。」

「悠真先生……」

「美玖は死なない。俺が死なせないから。」

悠真先生の心臓の音が、私に聞こえる。

ああ、このリズムは少し早い。

きっと1分間に100から120を刻む、モデラートのリズムね。
< 143 / 298 >

この作品をシェア

pagetop