白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
モニターの中で、脳が静かに呼吸しているように見えた。

血流、脈動、全てがリズムを刻んでいる。

アームの先端を操りながら、俺はその“音”を聴いていた。

「出血なし。順調です。」

里奈さんの声が、遠くで響く。

指先に神経の緊張が伝わる。

だが迷いはない。

脳の表層をなぞるように、わずかに動かす。

モニターに見える淡い影——それが、美玖を蝕んできた腫瘍だ。

「見えた……」

息を詰める。

機械のアームが、俺の呼吸と一体になって動く。

0.1mm単位の世界。ただ一つの震えも許されない。

脳と腫瘍の境界を、慎重に剥がしていく。

指先に伝わるわずかな抵抗。

その奥にある、美玖の未来を思う。

何も考えず、ただ淡々と処置を進める。

迷いを捨て、音のように正確に、静かに。

シミュレーション通りにいっている。

だがこれは、ただの機械操作じゃない。

この指先が導くのは——愛する人の“命の旋律”。
< 164 / 298 >

この作品をシェア

pagetop