白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
はぁ、はぁ……息が乱れる。

マスクの中が熱い。

「血圧安定。」

里奈の声が聞こえた瞬間、安心よりも不安が押し寄せた。

なぜだ……? 手が震えている。

さっきの出血——あの一瞬で、美玖を失いかけた。

その恐怖が、まだ体の奥に残っていた。

「悠真君、代わる。」

里奈の声。落ち着いているのに、どこかに焦りが滲む。

「いや、俺が……」

言葉を出した瞬間、自分の声が掠れているのがわかった。

「あなた、今、冷静じゃない。」

息を飲む。

正しいのは彼女の言葉だ。

だが俺の中で理性と感情がぶつかり合う。

——ここで手を放したら、美玖を二度失う。

「それでも、美玖を救えるのは俺だけだ。」

口にした瞬間、震えていた指が止まった。

再び操作席に手を置く。

アームの先が、命の境界をなぞるように動く。

金属と人の指が一体になる——もう迷いはなかった。

「……行くぞ。」

自分に言い聞かせるように呟き、再び命の旋律を奏で始めた。
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