白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
静寂の中、アームの先端が微かに動くたび、わずかな神経の振動がモニターに波を描いた。

もう震えはなかった。

心臓の鼓動も、呼吸も、すべてがひとつのリズムに溶け込んでいく。

——ここから先は、俺の“手”が信じるままに。

ピアノを弾くように、滑らかに、確実に。

腫瘍の輪郭をなぞりながら、少しずつ分離させていく。

柔らかな組織の感触。

モニター越しでも伝わる、命の“手触り”。

「……取れた。」

ふっと、腫瘍が抵抗を失った。

その瞬間、息を詰めていた里奈さんが小さく息を吐く。

俺はそれを静かにトレーへと収めた。

美しくも、残酷なほど小さな塊。

これが、美玖を蝕んでいたもの。

「残りも慎重にいく。」

細かな残存部をひとつひとつ、丁寧に取り除いていく。

指先に集中するたび、まるで彼女の心に触れているような錯覚があった。

——美玖、君は今、どんな夢を見ている?

ゆっくりと声に出さずに問いかける。

もうすぐだ。

あと少しで、君の音が戻る。

「……もうすぐ終わるよ。がんばろうな。」

マイク越しの声が、無菌のオペ室に、祈りのように響いた。
< 167 / 298 >

この作品をシェア

pagetop