白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
オペ室に、緊張が満ちた静寂が戻る。

俺の指先が再び動き出す。

モニターの中の脳の断面に、細やかな反射が走った。

アームの動きは正確だ。まるで心臓の鼓動と呼応しているように、一定のリズムで進んでいく。

「右側の神経束、電気刺激いくわよ。」

里奈さんの声が響く。

小さな電極が脳表に触れた瞬間、モニターが反応した。

「反応出た!」

里奈さんの声が少し震えている。

「運動野、保たれてる!」

黒川先生の言葉が重なる。

「……よし、クリップ固定。」

俺は短く答え、慎重にアームを操作した。

手の中で、生命が確かに呼吸を取り戻していくのがわかる。

ピッ……ピッ……ピッ……

心電図の音が、穏やかなテンポに戻る。

オペ室の空気が一気に緩む。

マスクの中で息を吐く音が交錯した。

「神経温存、成功。」

誰かがそう呟いた。

だが俺の視線はただ、モニターの中の美玖の脳を見つめ続けていた。

——君の“音”は、まだ生きている。
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