白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「分かるでしょう!指が動かなくなったら、私は終わるからよ。」

「終わる?何が終わるんですか?」

私はカッとなって、同意書を先生に投げつけた。

「私のピアニスト人生よ!」

同意書は、先生の胸に当たって床に落ちた。

「先生は、ピアニストを分かっていない!」

私の目からは、いつの間にか涙が零れていた。

悔しい。なんでプロデビューした日に、こんな事が起こるのよ!

そんな思いを先生に見られたくなくて、私は顔を反対に向け、涙を拭いた。

すると先生は、右手を伸ばして自分の指で、私の涙を拭いてくれた。

「えっ?」

なに?患者の涙を指で拭うって、何考えてるの?

私は改めて、先生を見た。

でも先生の表情は崩れていない。むしろ淡々としている。

「今の仕事を失うかもしれない。それはどの患者さんも、抱えている悩みです。」

「だから何なのよ。」
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