白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
悠真先生はどこまでも優しかった。

「一緒に生きるなんて、私には無理。」

「美玖。」

「もう来ないで。あなたは私に必要ない!」

そう言うと悠真先生は、注射器を持って私から離れた。

「今日は戻るけど。明日はまた来るから。」

「回診だけでいいわよ。」

「夜も来るから。」

悠真先生は、私に背中を見せた。

「俺は美玖の心も救ってみせる。」

去って行く悠真先生の背中に向かって、私は心の中で呟いた。

きっとあなたは、私がピアニストとして終わったと知ったら、自分を責めてしまう。

その傷の一生、背負わせるつもりはない。

「うう……」

さよなら、愛しい人。

さよなら、私の初恋。

その夜は、嗚咽を漏らしながら泣き叫んだ。
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