白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「指が動かなくなるのは10%程。先生はその壁を打ち破った。細かい指の動きまで守るなんて、到底追い付かない。」

「俺は、彼女のピアニストとしての人生を奪った。」

そうなんだ。

俺が美玖の人生を奪った。

輝かしい、ピアニストとしての人生を。

「天音さんは、その件に関しては何て?」

「……命が救われただけで十分だと。」

篠田先生が俺の肩を掴む。

「彼女がそう言うのなら、それでいいじゃないですか。自分を責めないで。」

俺はうんと頷くと、立ち上がってロッカー室を出た。

そこには、明るい日差しが差し込まれていて、俺の目には眩しく見えた。

病院を訪れる人には、それぞれ悩みがあって、それぞれの人生が詰まっている。
< 213 / 298 >

この作品をシェア

pagetop