白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
その時だった。リハビリ施設の窓から、悠真先生の顔が見えた。

一瞬、体を電子ピアノの中に隠した。

「どうしたの?美玖ちゃん。」

「あ、彼氏が外にいて。」

坂井先生は立ち上がって、窓の方へ向かい、悠真先生が立っている窓を開けた。

「彼氏さん。今日、美玖ちゃん来てませんよ。」

「えっ?」

「何でも用事があるとかで。」

「……そうですか。ありがとうございます。」

そう言うと悠真先生は、車に乗って行ってしまった。

それを見送ると、坂井先生が戻って来た。

「あれでよかった?」

「はい。ありがとうございます。」

私は電子ピアノの中から立ち上がった。

「まだ、別れるって言ってないの?」

「はい。」

「言わないと。彼、また来るよ。」

そんな事は分かっている。
< 253 / 298 >

この作品をシェア

pagetop