白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
指先がまだ、彼の肌の温度を覚えていた。

夜の静寂の中、鼓動の音だけが二人を包み込んでいる。

声も出せず、ただ見つめ合う。

その瞳の奥に、言葉以上のものが溶け込んでいた。

私はそっと息を吸った。

胸の奥で、ピアノの残響のように、彼の鼓動が響いている。

触れるたびに、自分が溶けていく気がした。

“愛されている”という感覚が、熱ではなく静かな波のように広がっていく。

悠真さんは髪を撫でながら、微笑んだ。

「もう少し、このままでいい?」

その声に、私はただ頷いた。

言葉を交わさなくても伝わる。

これは情熱の後の、魂の呼吸。

窓の外で、夜が明け始める。

微かな光がふたりの肩を照らす。

触れ合う手のひらに、確かな命の温度が残っていた。

それは炎ではなく、永遠へと続く“余韻”だった。
< 270 / 298 >

この作品をシェア

pagetop