白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
やはり、あの時聴いた朝倉君とも違わぬ旋律と、美玖らしい音が合わさっている。

ああ、これこそが美玖の音が戻ってきたと感じる一曲だ。

そしてラスト。最後の曲。

リスト《愛の夢 第3番》

再生の愛の象徴。

情熱的で、でも穏やかな幸福感が漂う曲。

美玖は、死の淵から戻って来て、見事この三曲を弾き切った。

最後の一音が鳴った時、ステージは拍手の渦に巻き込まれた。

「天音さん、最後まで弾いてよかったわね。」

里奈さんの言葉に、俺はうんと頷いた。

コンサートが終わり、美玖はお客さんに握手を求められ、それに応じていた。

俺は手に、小さなブーケを持っていた。

美玖に渡す為に、売店で買っておいたものだ。

あの時と同じ。小さな白いブーケと同じ花。
< 290 / 298 >

この作品をシェア

pagetop