白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
すると看護師の石田さんに、クスクス笑われた。

「また患者さんに、蹴られたんですか。」

「はい。女心を知らないって言われて。」

そして何故か、廊下を歩く患者も、クスクス笑っている。

「ほんと、先生は無駄にイケメンですからね。」

「無駄に?ええ?」

俺は蹴られた足を摩った。

まったく、ここの患者は暴力が多い。

いくら脳の病気だからと言って、制御不能にも程があるだろう。


「そう言えば、個室の天音美玖さん。手術同意書、書いて貰いましたか?」

石田さんが俺に大声で聞いてくる。

「いや、それがまだ……」

「いいんですか?彼女の病気、進んじゃいますよ?」

「分かってますよ。」

俺は石田さんをチラッと見ながら、返事をした。

そしてナースステーションに戻ると、天音さんのカルテから手術同意書を抜き去った。

裏には、手術以外の方法が書いてある。
< 34 / 298 >

この作品をシェア

pagetop