白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
確かに他にも方法はある。

だが天音さんの場合は、いづれも彼女の根本的な治療にはならない。

やはり手術だ。オペしか彼女を救う手段はない。

俺は、廊下の一番奥にある、天音さんの病室を訪ねた。

「天音さん。」

そう呼び掛けた時だ。

彼女から、歌っている声が聞こえた。

しかも歌詞はついていない。全てラララ―で歌っている。

そしてよく見ると、布団の上を鍵盤に見立てて、指で弾いている。

あたかも彼女の音楽が、そこにある気がした。

これが、彼女の音楽。

陽の光が差して、それはまるで神に捧げる音楽のように聞こえた。

入り口のドアの隣にあった壁にもたれながら、しばらく彼女の音楽を聴いていた。

何の曲を弾いているのだろう。

この前は、ドビュッシーだと言っていた。

これも、ドビュッシーなんだろうか。

そんな事を考えながら、ふと目を瞑った。

彼女の声だけが俺の耳に届き、音が鳴らない鍵盤からは、彼女の弾く鈍い音が発せられていた。
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