白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
直ぐに看護師がやってきて、点滴の用意をしてくれた。

俺は彼女の袖口をまくると、この前の注射を思い出した。

これで何回目だ。

彼女の病状は、確実に体を蝕んでいる。

「先生、私が点滴しましょうか。」

「お願いします。そして枕を少し高くして。ステロイドを10mg静注。」

「はい。」

看護師はスイッチで彼女のベッドの枕元を、少し高くした。

「先生……」

「ん?」

俺は彼女を見つめた。

頬を歪ませながらも、彼女は俺に微笑みかける。

「私、平気よ。」

その言葉が痛かった。

本当は平気なんかじゃない。きっと、苦しいはずだ。

俺は彼女の手を握った。

「無理しないで。今はゆっくり休んで。」

彼女の瞳が俺を真っ直ぐに射抜く。

それだけで、俺の心は波打つ。

「……弾けなかった。」

彼女の痛みが、伝わってくる。

「私、もう……ピアニストじゃない……」
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