白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「そんな事はない。」

俺は淡々と否定した。

本当は誰よりも強く、否定したかった。

だが医者は、どんな時でも冷静さを求められる。

そして俺は彼女に、手術同意書を差し出した。

「手術を受けるべきだ。」

彼女はやっとうんと頷いてくれた。

俺は胸元のポケットから、ボールペンを差し出した。

ちなみに、医者になった時。父親から記念にと貰ったボールペン。

書き心地が良くて、いつも愛用している。

でも彼女は、そのボールペンを受け取らなかった。

「もう少し……もう少しだけ、待って下さい。」

必死の訴えだった。

「今はまだ、ピアニストでいたいんです。」

その言葉に、ボールペンを胸のポケットに入れた。

「決心がついたら、教えて下さい。」

「はい。」

俺は手術同意書を持つと、自分の無力さを感じた。

こんなに命を救いたくても、本人が同意しなければ手術はできない。


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