白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
俺はそこへと向かった。

ダヴィンチルームには、幸いにも脳外科部長の黒川先生がいた。

「黒川先生。今、ダヴィンチの練習できますか?」

「なんだ、渡部か。いいよ。」

そう言って黒川先生は、操作席(コンソール)を案内してくれた。

座ると人工脳が見えた。

コンソールの両手を慎重に置くと、ガラス越しのアームが静かに動き出した。

シミュレーターの映像に浮かぶのは、人工の血管模型。

金属の指先が1ミリ単位で、触れずに血管をなぞる。

「……0.2秒遅い。」

独り言のように呟いて、再び指を動かす。

操作盤の周囲には心電図のような波形モニター。

一つの誤差が命を奪う世界。

彼は息を止めたまま、何十回も同じ軌道をなぞる。

「まただ。」

俺は練習を重ねる。彼女、天音美玖の為に。

「練習熱心だな。」

黒川先生が、後ろから俺を覗き込む。
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