白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
もちろん、医師としての心得は持っている。

患者の命を救うのは、あくまで仕事。

それ以上は、考えてはいけない。

「だけど、そこまでの情熱がなければ、本当の意味で患者を救った事にはならない。」

俺がそう言うと、黒川先生はクスっと笑った。

「おまえにそこまで言わせる患者さんに、会ってみたいよ。」

「どうぞ。一番奥の個室にいます。」

黒川先生は、目をパチクリさせた。

「あの天才ピアニストか。」

「はい。」

微笑むと黒川先生も微笑んだ。

「なんだ。特別待遇か。」

「まさか。そんなんじゃないですよ。」

その時だった。同僚の医師、鷲尾先生がダヴィンチルームに入って来た。

「あら?先約?」

「俺は終わりましたよ。どうぞ使って下さい、鷲尾先生。」

俺がダヴィンチルームを出ると、鷲尾先生が追いかけてきた。

「もうお帰りですか。」

「あー、そうですかね。」
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