白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
ロッカー室で着替えて、裏口を出ると里奈先生が立っていた。

「お待たせしました。」

「いえ。私も今来たところだから。」

そう言うと里奈先生は、自分の車を指差す。

俺はそれに何も考えずに従った。

彼女の車の助手席に乗ると、シートベルトを着けた。

「里奈先生、車通勤なんですね。」

「そうね。本当はタクシーとかにした方がいいのだけど。」

静かに滑るように車が動き出す。

里奈先生の運転は、無駄がない。そして何よりも心地いい。

「悠真君は、近くに住んでるから徒歩?」

「はい。すぐそこのタワーマンションに住んでます。」

俺が住んでいるマンションは、病院と目と鼻の先だった。

夜中のオンコールにも対応できる。

それに脳外科医は、手術で10時間も立ちっぱなしの時がある。

過労で自動車事故を起こす医師も、珍しくない。

だから俺は、徒歩10分で帰れるマンションを選んだ。
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