白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「どうして、私の幸せを悠真君が決めるの?」

「誰だって、普通の幸せが欲しいでしょ。」

「普通の幸せって、何よ。」

俺は彼女の目を見て告げた。

「抱き合った後も、側にいて抱きしめられる。オンコールに呼ばれない男だ。」

そう言うと彼女に、頬を叩かれた。

「こんな侮辱、初めてです。」

息が止まった。

「私も脳外科医です。あなたを理解しているつもりです。」

「でも……」

「私じゃダメなんでしょ?」

そう言うと、彼女は薄暗い中ゆっくりと去って行った。

俺もゆっくりと歩いて、宿直室に向かった。

部屋のドアを開けると、二段ベッドが四つもある。

俺は一番奥の二段ベッドの下に、その身を投げた。

「いいんだ、これで。」

俺はそう言って目を瞑った。

そうなんだ。恋愛なんてできない。

愛し合っても、余韻に浸っている時間もない。

彼女を朝まで、抱きしめてあげることもできない。

きっと彼女を幸せにできるのは、そういう当たり前のことができる男だ。

俺の目から、涙が溢れた。
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