白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「脳梗塞じゃないな。」

男性の医師が言った。

「今夜はまず点滴で、症状を抑えますね。」

私はうんと頷くのが、精一杯だった。

そして看護師の手で、私の腕に点滴が打たれる。

「デキサメタゾン、メトクロプラミド、アセトアミノフェンも投与して。」

「はい、先生。」

そして私の中に冷たい液体が入ってきて、私は涙を流しながら男性医師の腕を握った。

「先生、私は助かりますか……」

「助けます。俺を信じて。」

その一言で、私は目を閉じた。

「天音さん?天音さん!」

看護師が呼び留めるのを、男性医師が止めた。

「今は眠らせてやろう。」

その言葉で安心して、私の意識は朦朧としてきた。

「随分派手なドレスだな。」

「今夜が、ピアニストとしてのプロデビューの日だったそうです。」

「ピアニスト?……脳腫瘍なんて、厄介だな。」」

先生の声が私を包んだ。
< 6 / 298 >

この作品をシェア

pagetop