白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「ううん。何でもない。」

切なかった。自分からキスするなんて、初めての事だったのに。

「ところで、今何時?」

「今?お昼過ぎたところだけど。」

それを聞いた渡部先生は、時計を急いで見た。

「ヤバい。やってしまった。」

ベッドを這い出して、先生は宿直室のドアに手をかける。

「なに?どうしたの?」

私も慌てて先生の後を追う。

先生は走って行くと、エレベーターに乗って3階を押した。

「くそっ!回診までには起きるはずだったのに!」

先生、苛立っている。

「寝てしまったのは、仕方ないじゃない。夜中に起こされたんでしょ。」

「なんで知ってるんだよ。」

「それに、嗚咽漏らしながら泣いてたって。ねえ、どうして?」

「だから何で、そこまで知ってる!」

そしてエレベーターが開いて、先生はまた走るとナースステーションに飛び込んだ。

「回診に間に合わなくて、すみませんでした。」
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