白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「ううん。落ち着いてるよ。」

なんだか先生に見つめられると、ドキドキしてしまう。

そう。私は今、生きている。

「天音さん……」

「はい。」

先生は私をぎゅっと抱きしめた。

「ちょっとだけ、君に甘えてもいい?」

私のメトロノームが、鳴り出した。

トクントクンと走り出す。

「うん……」

先生の吐息が、頬にかかる。

近い。先生の顔が近い。

そして先生は、私の指を両手で握りしめた。

「君の手に触れると、俺の方が救われてる気がする。」

「どうして?」

「俺も君も、この指で誰かを救っている。」

今、分かった。近いのはお互いの心だということを。

「泣いてたのは、俺には女性を幸せにすることができないって、思ってたから。」

私も先生の手をぎゅっと握った。

「そんなことない。」

「あるよ。実際、俺は今まで傍にいてくれた彼女を、幸せにしたことがない。」
< 72 / 298 >

この作品をシェア

pagetop