白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
恋してはならない人なのに。

彼がいなくなった今もまだ、心臓がトクントクンと鳴っている。

恋なんて、無駄だと思っていた。

誰かを好きになって、その人を想う時間があったら、その時間をピアノの練習にあてはめたい。

それだけを願って生きてきた。

そうよ。

「恋なんて、してもただ傷つくだけ。」

そう自分に言い聞かせた。

夜になって、点滴が終わった。

いつも思う。これはただの時間稼ぎでしかならない事を。

そして看護師さんが、点滴を外しにやってくる。

「ねえ、看護師さん。今日、渡部先生は?」

看護師さんは、はぁーっとため息をつく。

「天音さん。渡部先生は天音さんの担当医ですけど、専属じゃないですよ。」

「分かってますよ。」

私はイラついていた。

会いたい時に会えない。

それは分かっていたはずなのに。

「それにしても、渡部先生は罪な人ですよ。」


 
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