白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
もし、指が動かなくなったら、もうこうして鍵盤を弾くこともない。

私は残された時間を、ピアノに捧げようと思った。

その時だった。

黒川先生が、病室の中に入って来た。

「こんばんは。さっき看護師さんから、手術の同意をすると聞いて来ました。」

少し不安が広がった。

「……渡部先生じゃないんですか?」

「俺は渡部先生の上司で、脳外科の部長です。心配しなくてもいいですよ。」

そして黒川先生が、差し出してきたのはあの手術同意書だった。

裏側に、渡部先生の文字で、他の方法が書いてある。あの同意書。

ここまで私を説得してくれたのは、渡部先生だ。

先生じゃないと、嫌。

「渡部先生じゃないと、同意しません。」

そう言うと黒川先生は、下を向いた。

「そんなに、あいつがいいですか。」

「理屈じゃありません。どうせ渡部先生が、執刀するんでしょ。」

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