白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「ですよね。そんな事あったら、致命的ですよね。」

「そうだね。指の動かないピアニストは、いないからね。」

私はロールピアノをそっと見つめた。

「君は天才ピアニストなんだ。これから、たくさんのお客さんの前で、たくさんの曲を弾く。」

「はい。」

「リハビリも仕事の内だよ。」

遠藤さんはそう言って私の背中をバシバシ叩いた。

「じゃあ、頑張って治して。」

「ありがとうございます。」

遠藤さんが病室を出て行った後、私はロールピアノの鍵盤を叩いた。

「弾けないなんて、あり得ない。」

私はその後、狂ったように曲を弾き始めた。

夕食が運ばれてくる。

「天音さん。ご飯の時間ですよ。」

そう言われても、私は曲を弾き続けた。

30分して、看護師さんが様子を見に来た。

「ピアノは一旦止めましょう。ご飯食べないと。」

そう言ってロールピアノの上に、食事のトレーを置いた。
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