白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―

第4章 Allegretto ―触れたい、でも触れられない

ロッカー室のドアを開けると、そこには一枚のCDアルバムが置かれていた。

ショパンの曲が収録されているアルバム。

ショパンを弾いているいるという、美玖のことを知りたくて買ったものだ。

その時、隣のロッカーのドアが閉まった。

「ショパン?クラシックですか。」

「……ええ。」

俺は手に取ったCDをまたロッカーの中に置いた。

「相当入れ込んでますね、渡部先生。」

「そうでしょうか。」

そして篠田先生と一緒に、ロッカー室を出て非常口階段で3階に行く。

「まだ、ダヴィンチルームで練習してるんですか。」

「はい。」

迷いなく答えた。

「渡部先生だったら、2~3回の練習で済むでしょうに。」

「何度やっても、100%これだというのに、辿り着けなくて。」

階段を昇りながらでも、美玖の顔が浮かぶ。

ー ピアニストに戻れないなら、死んだのも同じ -
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